大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和63年(う)388号 判決

主文

原判決を破棄する。

被告人を徴役一〇年に処する。

原審における未決勾留日数中六〇日を右刑に算入する。

押収してある回転弾倉式けん銃一丁(当庁昭和六三年押第一〇二号の一)を没収する。

理由

本件控訴の趣意は、名古屋高等検察庁検察官宮﨑徹郎の提出に係る津地方検察庁検察官野﨑哲哉が作成した控訴趣意書に記載されているとおりであるから、これを引用する。

一  控訴趣意中、事実誤認の主張について

所論は、要するに、原判決は、原判示第二の二の(一)として、「被告人は、原判示の日時ころ原判示の愛桜会内六代目伊勢川島一家事務所前路上の普通乗用自動車内から、同事務所内のAほか四名に対し、その直近めがけて銃撃すれば、弾丸が命中して同人らを死亡させるに至るかも知れないことを認識しながら、これを認容し、あえて同人らに向けてけん銃(当庁昭和六三年押第一〇二号の一、以下「本件けん銃」という。)を使用して実包三発を発射し、弾丸を同事務所入口ガラス戸等を貫通させて内部に射入させたが、うち弾丸一発を右Aの左足親指に命中させて、同人に加療約二週間を要する左足趾指挫傷の傷害を負わせたにとどまり、同人らを殺害するに至らなかった。」旨の右Aほか四名に対する各殺人未遂の訴因に対して、「被告人は右Aほか四名の足元辺りをめがけて本件けん銃を使用して実包三発を発射し、うち一発の跳弾を右Aの左足親指に命中させ、同人に加療約二週間を要する左足趾指挫傷の傷害を負わせた。」との右Aに対する傷害及びほか四名に対する各暴行の事実を認定判示するにとどまり、また、原判示第二の三として、「被告人は、原判示の日時ころ、原判示の貸しビル前路上において、被告人の呼び出しに応じて同貸しビル二階の愛桜会内長谷川組事務所内から同事務所の出入口前階段踊り場に出て来たBの姿を認めるや、その直近めがけて銃撃すれば、弾丸が命中して同人を死亡させるに至るかも知れないことを認識しながら、これを認容し、あえて同人に向けて本件けん銃を使用して実包四発を発射したが、弾丸を右階段踊り場の側壁等に当てたにとどまり、同人を殺害するに至らなかった。」旨の右Bに対する殺人未遂の訴因に対して、「被告人は、右Bの足元辺り等をめがけて本件けん銃を使用して実包四発を発射した。」との右Bに対する暴行の事実を認定判示するにとどまっているのであるが、原審で取り調べられた関係各証拠によれば、前記の各殺人未遂の訴因のとおりの各事実がいずれも優に肯認されるところであって、原審で取り調べられた関係各証拠に対する価値判断を誤った末原判示第二の二の(一)の傷害及び暴行の事実並びに原判示第二の三の暴行の事実をそれぞれ認定判示するにとどめた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というのである。

そこで、所論にかんがみ、記録を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討するに、まず、被告人が昭和六三年五月一六日午前一一時三五分ころ三重県伊勢市曽祢二丁目九番三号所在の愛桜会内六代目伊勢川島一家事務所前路上の普通乗用自動車の車内から本件けん銃を使用して実包三発を発射し(以下「川島一家銃撃事件」という。)、同月一七日午前零時二五分ころCが所有する同市〈住所省略〉所在の貸ビル前路上で本件けん銃を使用して実包四発を発射した(以下「長谷川組銃撃事件」という。)ものであることは、原審で取り調べられた関係各証拠によって明らかであるところ、この各発射行為について原審検察官は、右五月一六日のそれが、右川島一家事務所内のAほか四名に対する未必の殺意をもって行われたものであり、右同月一七日のそれがBに対する未必の殺意をもって行われたものであると主張していたことが、一件記録によって明らかであり、これに対し、原裁判所は、右各発射行為が検察官主張のような未必の殺意をもって行われたものであることを認めることはできないとしたうえ、右五月一六日のそれは、右Aに対する傷害及びほか四名に対する暴行を構成するに過ぎず、右同月一七日のそれは、右Bに対する暴行を構成するに過ぎない旨認定判示していることは、原判決によって明らかであり、原判決が以上の判断をした理由として認定説示しているところの大要は、(1)被告人は、いずれの場合にも人の存在を認識しながら、少なくともその近辺めがけて一度ならずも本件けん銃を発砲したものであり、跳弾を含めた弾丸の弾道からすれば、被害者らの行動のいかんによっては、単なる傷害ないし暴行よりも重大な結果が発生していた可能性もある、(2)しかし他方、被告人は、自分の属する隅田組を始めとする倉本組系暴力団と右愛桜会系暴力団との対立抗争において、主として売名的な意図をもって原判示の一連の襲撃行為を行ったものであり、その目的からすれば、相手方を威嚇すれば足り、これを殺傷することまでを意欲していたとは考え難い、(3)実際、川島一家銃撃事件の際、発射した三発のうち二発の弾丸が右Aの約1.5メートル手前付近の床に当たってそれぞれ跳弾になり、残り一発についても右川島一家事務所出入口右側隅の柱の極低い部分に当たっているという弾道の状況に加えて、右事務所内にいた組員のDも検察官に対し、被告人において本件けん銃の銃口を下向きにしてこれを右事務所内に向けているのを目撃した旨供述していることからすれば、被告人は、右Aらの身体を直接ねらって本件けん銃を発砲したものとは認め難い、(4)また、長谷川組銃撃事件の際も、被告人は、当初、右長谷川組事務所の出入口から内部に本件けん銃を撃ち込もうと思ったものの、正面に人がいると弾丸が当たって死亡してしまうかも知れないと危惧してこれをやめ、外部階下から右事務所内に声をかけたところ、右Bが顔を出してきたため、同人の足元辺りをめがけて本件けん銃を一発発射し、同人がすぐさま右事務所の方へ姿を消した後に向けて、なおも三発発射したことが認められること、(5)右のとおり、被告人は、いずれの場合も、被害者らに死傷の結果を与えないように足元をねらうなどの一応の配慮をしたものといえるところ、確かに、そのような配慮をしても、本件けん銃から発射された弾丸が床や壁等に当たって跳弾となり、これが被害者らの身体の枢要部に命中し、これを死亡させることも絶無ではないとしても、そのような結果が発生するためには種々の偶発的要素の競合を必要とし、結果発生の蓋然性は必ずしも高いものではないから、被告人は、被害者らの死亡という結果を認容しながら本件けん銃を発射したものとはいえない、というものである。

しかしながら、原審で取り調べられた関係各証拠によれば、原判決が右に認定説示しているところとは裏腹に、(1)被告人は、自分の属する隅田組を始めとする倉本組系暴力団と前記愛桜会系暴力団との対立抗争において、右倉本組傘下の下に旗揚後間もない右隅田組の名を上げると同時に、右隅田組に加入して間もない自分の組員としての男を上げることにより、右隅田組内における自分の立場を安固なものとし、かつ、自分を拾ってくれた右隅田組組長に対する恩義にも報いるために、他に先んじ右愛桜会系暴力団事務所等を銃撃することを企て、その一環として、川島一家銃撃事件及び長谷川組銃撃事件を敢行したものであること、(2)被告人は、右のような動機から右愛桜会系暴力団事務所等を銃撃することを企てたものの、いざ川島一家銃撃事件を敢行する段になると、本件けん銃発射直前には緊張と興奮とで全身がこわばり、汗がじわーっと出て来る感じで、本件けん銃を握っていた右手にぐっと力が入ってしまう状態であったし、その時点で被告人自身も、かかる身体的、精神的状態にあることを自覚していたこと、(3)他方、被告人の射撃の技量については、被告人は、本件の暴力団同士の対立抗争事件以前には、昭和六一年二月ころに本件けん銃により六発試射したことがあるに過ぎず、けん銃の射撃の腕前は、未熟の段階であり、現に、川島一家銃撃事件の際も、事務所出入口のガラス戸開放部分を通して内部に弾丸を撃ち込もうと、前記川島一家事務所前路上の普通乗用自動車内から両手で本件けん銃を支えて一発目を発射したのに、実際には、一発目からガラス戸の部分を貫通させたうえ、内部に弾丸を撃ち込んでしまったこと、(4)したがって、川島一家銃撃事件の際には、被告人自身も自己の射撃技量の未熟の点、すなわち、他人の身体付近をめがけて本件けん銃を発射するに際し、これにより発射された弾丸が直接又は跳弾となって相手の身体に当たって相手を死亡させないように発射するというような腕前を持っていないという点を十分自覚していたこと、(5)被告人は、川島一家銃撃事件を敢行するに当たり、事務所内中央のソファーのところに少なくとも四人は人が座っていることを確認したうえで、右ソファーに座っている人物(右A)の方に向けて弾丸を二発撃ち込んだものであり、うち一発目は、右のとおり、両手で本件けん銃を支えてガラス戸開放部分を通して右事務所内に撃ち込もうとしたものであり、また、二発目は、乗っていたオートマチックの普通乗用車のブレーキが緩んでゆるゆると前進してしまったために、今度は、ガラス戸越しに撃ち込んだものであるところ、結果的に、一発目及び二発目は、それぞれ右事務所の床に当たって跳弾となり、右Aの座っていたソファーや同人の左足親指に命中したものであること、なお、三発目は、乗っていた普通乗用自動車が更に前進し、右川島一家事務所前から離れ始めたため、右事務所の入口すぐ右側に置いてあったポリ容器の方をめがけて発射したものであること、(6)被告人は、長谷川組銃撃事件を敢行するに当たっては、川島一家銃撃事件のときのように脂汗の出るほどの緊張感はなかった代わりに、報復のために互いに相手の事務所に車を突っ込ませるようなことをしているのを知り、「何をチョロイことをしとるんだ。どうせやるならチャカでかち込まなければ、倉本の値打がない。」、「おれが一発ええ格好してやる。」などと気負ったうえ、前記長谷川組事務所の内部に人がいることを確認した後、警察官を装って内部に声をかけ、その声に応じて前記Bが出入口から顔を出すや、右事務所の出入口(二階)に至る階段下から、腰を落として本件けん銃を両手で支えながら同人の方に向けて連続四発も発射したこと、(7)階段を上った右出入口付近は二坪弱の比較的狭いコンクリート床の踊り場で、壁には硬質ボード、天井には白色ボードがはり付けられた構造であったから、階段下から出入口付近に向けてけん銃を発射するときは、弾丸が踊り場の壁等に当たり跳弾となる危険性があり、現に、右四発の弾丸は、右事務所の出入口に至る階段の上の方の部分のみならず、右出入口付近の壁や天井等の部分にも貫通痕や跳弾痕等の損傷を及ぼしたこと、(8)右発射の際にも前記(4)のとおりの状態(被告人の射撃技量及びこれについての被告人の認識)であったことの各事実が認められるのであって、これらの事実関係からうかがわれる被告人をいわば捨身的に川島一家銃撃事件及び長谷川組銃撃事件を敢行させるに至った動機の強固さ、そのときの被告人の極度の緊張興奮状態、被告人の行った執ようともいうべき本件けん銃各発射の回数及び態様、被告人の決して高度とはいえない射撃の技量等に照らすならば、被告人は、川島一家銃撃事件及び長谷川組銃撃事件のいずれの際にも、各被害者の方に向けて直接本件けん銃を発射したものであり、かつ、そのいずれの場合にも、銃撃の部位を各被害者の足元だけに限定したうえ、被害者の身体に直接弾丸が命中しないように十分配慮したものではなかったことが明らかであり、結局、被告人は、本件けん銃を各被害者の方に向けて発射すれば、弾丸が直接又は跳弾となって、相手の身体に命中して各被害者を死亡させるに至るかも知れないことを十分認識しながら、前記認定の動機に駆り立てられた末、あえてこれを認容し、川島一家銃撃事件及び長谷川組銃撃事件を敢行したうえ、各被害者の方に向けて本件けん銃をそれぞれ発射したものであり、被告人が少なくとも各被害者に対する未必の殺意を抱いていたことを肯認するに十分であるといわなければならない。そして、この点は、当審における事実取調べの結果によって一層裏付けられこそすれ、何ら左右されるところはなく、被告人の原審公判廷及び当審公判廷における各供述のうち、右認定に反する部分は信用できないし、前記Dの検察官に対する供述は、被告人に未必の殺意のあったことを認定することの特段の妨げになるものとは考えられない。

以上のとおり、殺人未遂の前記各訴因に対して、未必の殺意を肯認しないで、原判示第二の二の(一)の傷害及び暴行の事実並びに原判示第二の三の暴行の事実をそれぞれ認定判示するにとどめた原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるといわざるを得ず、論旨は理由がある。

二  破棄自判

よって、その余の控訴趣意(量刑不当)について判断するまでもなく、原判決は刑訴法三九七条一項、三八二条によって破棄を免れないところ、訴訟記録並びに原審及び当審で取り調べられた各証拠によって直ちに判決することができると認められるので、同法四〇〇条但書により当裁判所において更に判決する。

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一  昭和六一年四月二六日午後二時一五分ころ、公安委員会の運転免許を受けないで、三重県四日市市ときわ三丁目一番三号付近道路上において普通乗用自動車を運転し、

第二  暴力団山口組系倉本組内隅田組組員であるが、右倉本組内小船谷組員と暴力団愛桜会内二代目伊勢高橋組員とのトラブルが発端となって、右倉本組系暴力団と右愛桜会系暴力団との対立抗争状態にまで発展したことから、この際その機に乗じて、自分の属する右隅田組の名を上げるとともに、自分の男をも上げるなどのために、右愛桜会系暴力団の事務所等に対してけん銃を撃ち込むことを企て、

一  昭和六三年五月一三日午前五時一五分ころ、Eが所有する同県松阪市〈住所省略〉所在のEビル(鉄骨造ルーフィング葺三階建事務所)二階有限会社○○松阪支店事務所を右高橋組関係者の経営に係るものと思い込み、同ビル前路上において、三重県知事の許可を受けないで、同事務所めがけて本件けん銃(当庁昭和六三年押第一〇二号の一)を使用し、実包四発を発射して火薬類を爆発させたうえ、その弾丸中三発を同事務所窓ガラス及び室内天井に命中させて弾孔を開けるなどの損傷(損害額約五万円相当)を加え、もって、右E所有の器物及び建造物を損壊し、

二  (一) 同月一六日午前一一時三五分ころ、同県伊勢市曽祢二丁目九番三号所在の愛桜会内六代目伊勢川島一家事務所前路上の普通乗用自動車内から、同事務所内のA(昭和三六年二月四日生)、F(昭和一一年一月一〇日生)、G(昭和二八年九月一日生)、D(昭和三五年一一月二三日生)及びH(昭和二二年七月一〇日生)に対し、同人らの方に向けてけん銃を発射すれば、弾丸が直接又は跳弾となって右五名の身体に命中して同人らを死亡させるに至るかも知れないことを認識しながら、これを認容し、あえて、本件けん銃を使用して同人らの方に向け実包二発を連続発射し、更に続いて実包一発を同事務所入口すぐ右側に置いてあったポリ容器の方を目がけて発射し、右各弾丸を三発とも同事務所入口ガラス戸等を貫通させて内部に射入させたが、うち弾丸一個を右Aの左足親指に命中させて、同人に加療約二週間を要する左足趾指挫傷の傷害を負わせたにとどまり、同人らを殺害するに至らず、

(二) 右(一)の日時場所において、法定の除外事由がないのに、本件けん銃及び火薬類である実包六個を所持し、

三  同月一七日午前零時二五分ころ、Cが所有する同市〈住所省略〉所在の貸しビル前路上において、被告人の呼び出しに応じて同貸しビル二階の愛桜会内長谷川組事務所内から同事務所の出入口前階段踊り場に出て来たB(昭和四七年九月一九日生)の姿を認めるや、同人の方に向けてけん銃を発射すれば、弾丸が直接又は跳弾となって同人の身体に命中して同人を死亡させるに至るかも知れないことを認識しながら、これを認容し、あえて同人の方に向けて本件けん銃を使用して実包四発を発射したが、弾丸を右階段踊り場の側壁等に当てたにとどまり、同人を殺害するに至らず、

四  同日午後九時二〇分ころ、同県津市〈住所省略〉所在の愛桜会内田辺組事務所前路上の普通乗用自動車内から、三重県知事の許可を受けず、同事務所から出てきたI(昭和二五年一一月五日生)の足元あたりをめがけて、本件けん銃を使用して実包三発を発射し、火薬類を爆発させたうえ、凶器を示し、同人の生命、身体に危害を加えるような気勢を示して脅迫し

たものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(累犯前科)

被告人は、(一)昭和五五年二月二〇日津地方裁判所四日市支部で道路交通法違反、暴行罪により懲役八月(三年間執行猶予、同年一一月八日右猶予取消)に処せられ、昭和五六年一二月一三日右刑の執行を受け終わり、(二)その後犯した脅迫、器物損壊、道路交通法違反罪により昭和五七年八月二三日同裁判所同支部において懲役一〇月に処せられ、昭和五八年六月二二日右刑の執行を受け終わり、(三)その後犯した覚せい剤取締法違反罪により昭和五九年一〇月一二日同裁判所同支部で懲役一年四月に処せられ、昭和六〇年一一月三日右刑の執行を受け終ったものであって、右各事実は検察事務官作成の前科調書及び各判決書謄本(原審検察官請求番号検乙四、八、九号)によってこれを認める。

(法令の適用)

被告人の判示第一の所為は、昭和六一年法律第六三号附則三項により改正前の道路交通法一一八条一項一号、同法六四条に、判示第二の一の所為中、火薬類を爆発させた点は、火薬類取締法五九条五号、二五条一項に、器物損壊の点は、刑法二六一条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、建造物損壊の点は、刑法二六〇条前段に、判示第二の二の(一)の所為は、Aほか四名に対する関係でそれぞれ同法二〇三条、一九九条に、判示第二の二の(二)の所為中、けん銃所持の点は、銃砲刀剣類所持等取締法三一条の二第一号、三条一項に、実包六個を所持していた点は、火薬類取締法五九条二号、二一条に、判示第二の三の所為は、刑法二〇三条、一九九条に、判示第二の四の所為中、火薬類を爆発させた点は、火薬類取締法五九条五号、二五条一項に、凶器を示して人を脅迫した点は、暴力行為等処罰に関する法律一条(刑法二二二条一項)、罰金等臨時措置法三条一項二号に各該当するところ、判示第二の一の火薬類を爆発させた点と、器物並びに建造物の各損壊、判示第二の二の(一)のAほか四名に対する殺人未遂、判示第二の二の(二)のけん銃所持と実包六個の所持、判示第二の四の火薬類を爆発させた点と凶器を示しての脅迫はいずれも一個の行為で二ないし五個の行為に当たる場合であるので、刑法五四条一項前段、一〇条により一罪として、判示第二の一の事実については、最も重い建造物損壊の罪の刑で、判示第二の二の(一)の事実については、最も犯情の重いAに対する殺人未遂の罪の刑で、判示第二の二の(二)の事実については、重いけん銃所持の罪の刑で、判示第二の四の事実については、重い脅迫の罪の刑でそれぞれ処断することとし、判示第一、第二の二の(二)、四の各罪については、各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、判示第二の二の(一)、三の各罪については、各所定刑中いずれも有期懲役刑を選択し、判示第一の罪は、前記(一)、(二)、(三)の各前科との関係で四犯であり、判示第二の各罪は、いずれも前記(二)、(三)の前科との関係で三犯であるから、同法五九条、五六条一項、五七条によりそれぞれ累犯の加重(ただし、判示第二の二の(一)、第二の三の各罪については同法一四条の制限内で)をし、以上は同法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により、刑及び犯情の最も重い判示第二の二の(一)の罪の刑に同法一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人を懲役一〇年に処することとし、同法二一条を適用して原審における未決勾留日数中六〇日を右刑に算入し、押収してある回転弾倉式けん銃一丁(当庁昭和六三年押第一〇二号の一)は、判示第二の一、二の(一)、三、四の各犯行に供し、また、判示第二の二の(二)の犯行を組成した物であって、被告人以外の者の所有に属さないから、同法一九条一項一号、二号、二項を適用してこれを没収することとする。

(量刑の理由)

証拠に現れた本件各犯行の罪質、動機、態様及び結果、被告人の前科歴、被告人の性行等の諸事情、殊に、被告人は、車を保有するなどして無免許運転を繰り返し、その一環として判示第一の犯行を犯したこと、判示第二の各犯行は、暴力団員に特有の犯行であって、その動機は前記に説示したとおり芳しくなく、その犯行の態様も、事前に下見を行うなど用意周到に計画したうえで敢行されたものであって、悪質であり、とりわけ判示第二の二の(一)、三の各犯行は、結果的には、一名に加療約二週間を要する傷害を負わせるにとどまったものの、あと一歩のところで他の者の生命、身体にも重大な危害を及ぼしかねない危険なものであったこと、判示第二の各犯行のために、前記の対立暴力団間の抗争が一層激化し、他のけん銃発砲事件等が誘発されるに至り、これにより地域住民等の被った不安、恐怖の程度には著しいものがあったと考えられ、現に、判示第二の一の犯行の際には、暴力団とは無関係の一般市民の経営する会社事務所に間違って本件けん銃が撃ち込まれ、判示第二の二の(一)の犯行の際には、白昼、付近には子ども連れの一般市民等がいるという状況の下で、本件けん銃の発砲が敢行され、判示第二の三の犯行の際には、貸しビル所有者にも本件けん銃発砲による物損を及ぼしたほか、長谷川組事務所と同じ階を学習塾に使用するため借りていた会社も右犯行後解約するに至り、更に判示第二の四の犯行の際にも、隣家に本件けん銃発砲による物損を及ぼすなどしたこと、したがって、この種犯行を根絶するためにも、被告人に対しては厳しく刑事責任を追及しなければならないこと、被告人は、暴力団員としての活動歴が長く、前記の累犯前科等の多くの犯罪歴を有し、その反社会的傾向は著しく、再犯の虞のあることを否定できないことからすれば、被告人の刑事責任は相当に重いといわざるを得ない。したがって、被告人が今では一応反省の情を示していること、判示第一の犯行の関係では、被告人は、その後自動車運転免許を取得するに至ったこと、その他、証拠に現れた被告人に有利な事情を十分に斟酌しても、なお被告人を主文掲記の刑程度に処することはやむを得ないものと思料する。

以上の次第で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官山本卓 裁判官油田弘佑 裁判官向井千杉)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例